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リサイクル可能な複合材料のブレードの製造を可能にするElium<sup>®</sup>熱可塑性樹脂は、革新的で有望な代替品になります

リサイクル可能な複合材料のブレードの製造を可能にするElium®熱可塑性樹脂は、革新的で有望な代替品になります

アルケマ社は、複合材料部品メーカーの市場に向けて、熱硬化性樹脂のユーザーが現在用いている製造プロセスをそのまま使用することができる液体の熱可塑性樹脂Elium®を提案している。これによって、複合材料のリサイクルの可能性が広がるだけでなく、熱成形や熱溶着といった重要な熱可塑性樹脂のメリットも期待できる。風力エネルギー、自動車、建設、およびスポーツなど数多くの部門が、こういった特徴の恩恵を受けることになることだろう。

次世代の風力タービンのブレードは、熱可塑性複合材料を用いて作られることになるだろう

2018年12月にデュッセルドルフで開催された風力タービンブレード専門会議では、中国の主導的な風力タービンブレードメーカーの一つであるSinoma社のCTO、Bart Roorda氏がオープニングスピーチでこう述べ、基調講演を行った。今日、全世界で一年間に設置されている20,000基の風力タービンのブレード—すなわち約550,000トンの複合材料—は、グラスファイバーまたは炭素繊維/エポキシ樹脂をベースにした熱硬化性複合材料でできている。これらは軽くて丈夫な上に耐衝撃特性にも優れているため、この用途に最も適した材料になっている。しかしながらこれらには一つの大きな欠点がある。これらは作り直すことができない上に、これらのブレード—および他の様々な用途—に用いられている複合材料の寿命末期の問題が、今後数年のうちに大きな環境問題に発展するかもしれないのである。

風力タービン分野におけるElium® のチャンス

風力タービンは全世界で一年間に10~15%増加している(出典:世界風力会議)。この追い風の市場で、Elium® 熱可塑性樹脂は、リサイクル可能な複合材料でブレードを製造できるというイノベーティブで有望な代替技術を提示している。アルケマはこの樹脂の極めて優れた可能性を確信しており、エポキシ樹脂ブレードで一般的に用いられているプロセスをベースにして、Elium® 樹脂を用いた試作ブレードを工業生産できるかどうかを実証するため、いくつかの共同プロジェクトを実施している。

フランスでは、アルケマ社がPlastinov社や他の革新的な中小企業とEffiwindプロジェクトで協力している。このプロジェクトは、Aquitaine Regional CouncilとAdeme (フランス環境・エネルギー管理庁) の財政支援を受け、グラスファイバーとElium® 樹脂を用いてブレードを作り、エネルギー性能を改善することを目的としたものである。25メートルのブレードについては既に製造プロセスの適合性検証が完了している。「当社は、これらのブレードとその生産速度について、工業的な観点で材料の適正を確認しました。そして現在、2019年の終わりまでにDNV GL認定を取得する予定の独立機関と共に、材料性能の特性化およびブレードの動的試験と耐久性試験を行う段階—これがブレードメーカーに当社の樹脂を売り込む鍵となる—に入っています。」と、アルケマ社のElium® 開発マネージャーであるGuillaume Clédat氏は述べている。


アルケマ社の研究開発部が社内で行った試験では納得のいく結果が得られている。Elium® 複合材料でできた部品は、熱硬化性複合材料でできた部品よりも耐経年劣化特性が優れており、耐疲労性も10倍大きいことが既に証明されている。


また米国では2017年に、アルケマ社とその提携企業—米国の主導的なブレードメーカーであるTPI社など—が、100%のElium®をベースにした複合材料で9メートルの試作ブレードを製造するため、複合材料における大規模な米国投資プログラムであるAdvanced Composites Manufacturing Innovation (先進複合材料製造イノベーション研究所:IACMI) に所属して、インフュージョン成形のプロセス性、機械的特性、および環境面でのメリットを実証した。Elium® 樹脂は、エポキシ樹脂のように液状であり、熱硬化性複合材料と同じモールド成形を利用できる。しかしながらモールドを加熱する必要がないため、エネルギー消費量が少なく、室温で製造できる。さらに、熱硬化性樹脂を接着するのとは対照的に、ブレードのエレメントを、熱源を加えずに接着剤で簡単に組み立てられるというメリットもある。またブレードの特定のエレメントを熱溶着で簡単に組み立てることもでき、時間と製造コストの観点から大幅な節約が可能である。「それ以降、当社は新しく13メートルの試作ブレードを製造しましたが、これによって製造時間を、エポキシブレードに比べて20%短縮できることが実証されました。」と、Guillaume Clédat氏は述べている。
 

アルケマ社は、Elium® 複合材料部品のリサイクル可能性という難しい課題にうまく対処している

エポキシ複合材料でできた何百万トンもの風力タービンブレードだけでなく、自動車、飛行機、トラックまたは建造物に用いられている熱硬化性複合材料をリサイクルしなければならない時が来たら、環境保護という大きな難題を解決しなければならないだろう。これらの熱硬化性材料は、リサイクルするのが非常に難しく、場合によってはリサイクルしても採算が取れないことがある。現在それらは、ライフサイクルが終了した時点でゴミ埋め立て場に送られるか焼却処分されることが多い。

Elium® には熱可塑特性 (すなわち再利用が可能な特性) があり、アルケマ社は既に小型のElium® 部品で、リサイクルの可能性を実験室規模で実証している。そして現在では、Elium® 複合材料を用いた非常に大きい部品を、競争力のある価格でリサイクルできることを実証する、新しい段階に入っている。

当社では、重量が2.5トンある長さ25メートルのブレードのリサイクル実証試験を行うことを決定しています。これは三つのステップで行われ、まずブレードの切断を行った後、ペレットサイズまで細かく粉砕、これらのペレットを加熱して解重合しElium® 樹脂とグラスファイバーのどちらも回収するというものです。当社は、新品の樹脂と全く同じ品質の競争力のあるリサイクル品を生産するため、効果的なプロセスを開発するべく研究を進めています。それが実現すれば新しい風力タービンや自動車部門向けの部品を製造する機会も生まれるでしょう。

あらゆる複合材料プロセスに適合できる多用途樹脂

多くの利益が出る可能性を秘めた風力タービン市場の他にも、Elium® 樹脂は、様々な連続炭素繊維やグラスファイバーを用いた熱可塑性複合材料部品を、あらゆる大きさと複雑な形状で生産できる。Elium® 樹脂には、常温で素早く硬化するため使い易くかつ既存の熱硬化性樹脂の成形プロセスとの相性が良いという二つの大きな特徴があり、既にこれらの設備を導入している製造業者にとっては、投資コストを抑えることができるという経済的なメリットがある。ここでいう成形プロセスとは、インフュージョン (風力タービンのブレードやボートの船体に用いる技術—下の挿入図を参照のこと)、レジントランスファー成形 (RTM)、シート・モールディング・コンパウンド (SMC)、引き抜き成形、および含浸テープであり、Elium® はここに挙げるすべてのプロセスで適用できる。

アルケマ社は、大手メーカーと協力して、自社の樹脂をこれらすべてのプロセスでテストし、ターゲットとなる市場に特徴的な部品を試作する計画が進んでいる。

自動車部門や鉄道部門の部品に最適なRTMおよびSMCモールディング・プロセス

アルケマ社は、メッスにあるIRT-M2P [材料、金属加工、プロセス・テクノロジー研究所]、ならびに様々なフランスの自動車メーカーおよび自動車部品メーカーと協力して、2016年にFast RTMプロジェクトに参加した。「当社は、工業規模のパイロットプラントを作り、Elium® 複合材料と炭素繊維またはグラスファイバーのマトリクスを用いて自動車部品—車体や構造部品—を、メーカーが求めている2分間で部品1個の生産速度で量産できることを実証しました。」と、アルケマ社のマテリアル・サイエンティフィックディレクターであるMichel Glotin氏は述べている。

このプロジェクトによって、Elium® 樹脂を用いて製造した複合材料部品で自動車生産ラインを統一できる日もそう遠くない。欧州技術研究所-原材料部門 (ベルリン) が支援しているヨーロッパのプロジェクトでは、スペインの提携企業であるMondragon-Batzと協力して、侵入防止ドアの構造補強部品をElium® 樹脂をベースにした複合材料で製造できることを証明した。

SMC (シート・モールディング・コンパウンド) は、すでに広く実績のある技術で、熱硬化性樹脂メーカーの間でもよく知られたプロセスである。アルケマ社はこのプロセスによって、ドイツの化学専門企業であるBYK-Chemie社、および世界的な熱硬化性複合材料の調剤・製造企業であるIDIと提携し、炭素繊維を充填したElium® を用いて、非常にコスト競争力の高い部品を生産することを実証している。このプロセスは、高いレベルの機械的耐久性が求められる圧縮成形—非常に大きな部品や複雑な部品でよく見られる—に用いられている。SMCで製造したElium® 複合材料は、表面の美しさ、難燃特性、および電気絶縁性に優れており、自動車・鉄道部門向けの車体パネルや様々な構造部品に理想的な材料となっている。SMCで製造した複合材料部品は、特にホワイトボディーの金属やその他の自動車用構造部品に置き換わると考えられている。Elium® を用いて製造されているこれらの部品は、同じ耐久性を持つ鋼鉄製の部品に比べて重さが30~50%軽く、自動車の軽量化という今日の難しい課題の解決策となりえるものである。

強化コンクリート用リバーおよびプレストレスト・コンクリート用ケーブルに最適な引き抜き成形プロセス

Elium® 樹脂は、標準的な引き抜き成形機でも試験が行われており、この場合もまたメッスにあるIRT M2Pと協力して、 超耐久性の鉄筋やケーブル生産の実証試験を行っている。このプロセスに適合することにより、主に建設部門で最も重要な用途である、鉄筋コンクリート用のFRP強化リバーへの展望が開ける。これらは、建設部門でよく使われている一部の金属製の鉄筋に置き換わる予定で、海洋用途などの過酷な環境に曝される構造物では、耐腐食性があるという付加価値がある。とりわけ、Elium® をベースにした複合材料でできた補強バーは、固い熱硬化性複合材料でできた補強バーに比べて大きなメリットがある。「これらの補強バーは、熱成形することによって曲げることができるため、複雑な構造物を強化するのにたいへん適しています。これにより予めカスタマイズした形状にするためのコストを削減できます。」と、この開発の責任者であるGuillaume Clédat氏は述べている。

Elium® が狙いを定めているもう一つ別の用途は、セグメント工法で橋を建設する際に、腐食する傾向がある鋼鉄製のケーブルやストランドの代わりに用いるプレストレスト・コンクリート用の補強ケーブルである。引き抜き成形によりガラスファイバー補強Elium® 樹脂ストランドを作成し、次に複数のストランドを熱融着により一体化し、ケーブルを作る。

建設部門と土木部門の両方で行われているこれらの前途有望な開発の検証作業を視野に入れ、アルケマ社は、地盤、トンネルおよびその他のインフラストラクチャーを強化するための複合材料を製造しているイタリアのSireg 社と協力している。そして最初の試験サイトが、既に世界のいくつかの地域で計画されている。

UV照射で硬化するElium® 含浸テープ

炭素繊維またはグラスファイバーのテープにElium® 樹脂を含浸させながら自動積層装置によってプレフォーム上に積層することも可能である。まず、テープをほどくと同時にElium® 樹脂を含浸させ、プレフォーム上に配置した後に、テープに紫外線を照射することで樹脂を瞬時に硬化させるのである。「このプロセスは非常に革新的なものであり、瞬時に硬化するため工程時間を節約できます。」と、Guillaume Clédat氏は述べている。

アルケマ社は、Mäder社 (光重合開始剤の添加剤メーカー) およびMF Tech社 (フィラメント・ワインディング装置のメーカー) と提携し、この技術を用いて、非常に高い圧力に耐えられる80Lの水素タンクを既に設計している。

無限に広がる用途

Elium® 複合材料は、その機械的性能および成形プロセスの点から見た多用途性により、数多くの市場で様々な開発の可能性を開いている。「シンガポールのスポーツ研究所と協力して作ったサイクリング用の靴底や、テニスラケット、ホッケー用スティック、ヘルメットなど、スポーツ部門用の部品も既にElium®複合材料で生産されています。Elium® 樹脂が市場に登場して以来、当社にはそのユニークな特性に魅力を感じた中小企業から様々な引き合いがあります。この樹脂は、使い易いだけでなく何にもましてリサイクル可能な、高性能で軽い材料を目指した競争に勝てる大きな可能性を秘めています。当社はちょうどその開発の出発点にあります。」と、Guillaume Clédat氏は熱く結論付けた。

Elium® はマリンスポーツにも“浸透”

チーム・ラルーの航海を支援するプロジェクトの一環として、アルケマ社は2016年から、Mini 6.50 (船体と甲板がインフュージョン成形によってできたElium® と炭素繊維の熱可塑性複合材である単胴型帆船) の試作品の製造をサポートしてきた。そして二度の大西洋横断航海を含む2年間の航海を終え、Mini 6.50はその高い耐久性を実証した。

2019年には、ブルターニュに拠点を置くOuest Composites社でもアルケマ社と提携してインフュージョン成形法によってElium® を用いたセミリジッド・ボートの底面が製造された。

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